
推薦者・立花珠樹
シネコン普及以前には、行き当たりばったりで映画館に入ることが、しばしばあった。
何の予備知識も持たずに見て、心をつかまれ、宝物になった作品も多い。
山田洋次監督『TOKYOタクシー』を見て、そんな青春時代の記憶がよみがえったのは、この作品に、映画の楽しさがあふれているせいだろう。
フランス映画「パリタクシー」(2023年日本公開)を原作に、東京のタクシー運転手が、高齢者施設に向かう85歳の女性と心を通わせる物語。
山田自身は「軽い作品」と謙遜するが、映画を知り尽くした94歳の監督だからこそ生み出せた、軽妙で、笑いあり、涙ありの人間賛歌となっている。
山田作品のミューズ、倍賞千恵子をはじめ、木村拓哉、蒼井優、笹野高史らいずれも山田組を経験した俳優たちを主要な役に配している、特筆したいのは、倍賞の声の美しさ。
語りの部分もそうだが、劇中で流れる「星屑の町」「とても静かな夜だから」は素晴らしい。
「パリタクシー」と見比べることもお薦め。原作も心温まる作品だが、山田と朝原雄三の脚本が、いかに見事に「日本の今」の映画にしたか、がよく分かる。
11月21日(金)全国公開
配 給:松竹


