
推薦者・まつかわゆま
カンヌ映画祭でどうしてもチケットが入手できず見逃してしまったドキュメンタリーである。キャンセル待ちの列にも2時間ほど並んだが入れなかった。今年一番話題の作品だった、といってもよかろう。
2025年4月15日、カンヌ映画祭の並行週間の一つACID部門(映画作家たちが創設した「インディペンデント映画普及協会」の選出による部門)の上映作品の一本として本作は決定され、報道された。その翌日16日、イスラエルはガザを空爆し、本作の主人公、ガザ在住の25 歳の女性フォトジャーナリストであるファトマ・ハッスーナを家族と共に殺した(巻き添えではなく狙っての空爆だった)のである。その報道は大変なショックをもって迎えられ、カンヌ映画祭はイスラエル非難のステイトメントを出し、5月13日の開会式では審査員長ジュリエット・ビノシュが「ファトマは今夜、私たちと共にいるべきでした」と語り、プレスセンターの入り口にはファトマが大きな笑顔を見せる写真が貼り出された。何が何でも見なくてはと固く決心して万難排して挑んだが、冒頭に書いた通り、映画祭で見ることはかなわなかった。
というわけで、待望の公開である。
監督はイラン出身の女性監督セビデ・ファルシ。反体制派として投獄されたこともあり18歳で亡命、パリを拠点にする映像作家である。2024年、攻撃が続き封鎖されたガザで何が起こっているのかを、ファトマとのインターネットビデオ通話で記録しようというドキュメンタリーの製作を開始する。なかなかつながらないインターネット、パソコンやスマホを使ってのネット越しに、ファトマはガザの暮らしや人々の様子、自分のことや家族のこと、つまり、「今」を生々しく伝えてくれる。日々の爆撃でインフラは破壊され、食料が無くなり、人々は飢え、死に、悲しみは尽きず苦しみも尽きることはないガザの日常。それでも力強く辛抱強く生き抜こうとするガザの人々の逞しさ。それを大きな笑顔を見せ、ときにユーモアや詩情を交え伝えるファトマ。ふと、笑顔が消えても、すぐに自分を奮い立たせるようにもっと大きな笑顔をみせるファトマ。
その生命が永遠に絶たれてしまったことを観客は目撃する。それが今、あなたの生きているこの世界でおこったことを、このドキュメンタリーは突きつけるのだ。時代の鏡として時代を記録することがドキュメンタリーの一つの使命であり、それを見て観客は自分が何をすべきか考える(そして出来たら行動する)のが目撃した者の責任なのである。
配給:ユナイテッドピープル
公開中



