事実から何かをつかみ取り、真実として伝える数々の問題作  山形国際ドキュメンタリー映画祭2025 報告

文・まつかわゆま

 山形市で1991年より隔年開催されている「山形国際ドキュメンタリー映画祭」。世界の今を反映したジャーナリスティックな作品から、作家性の強い実験的な作品まで、できる限り地平を広げたドキュメンタリーを集めるイベントとして世界的にも定評のある映画祭である。山形を拠点に作品作りを続けた小川紳介監督の提案で始まった映画祭も19回目を迎えた。「国際長篇コンペティション」部門、アジア映画を対象にした「アジア千波万波」部門という二つのメイン部門に加え、今年はアメリカン・ダイレクト・シネマとパレスチナについての二つの特集が組まれた。今年の応募作は2676本と映画祭史上最多であったという。
 10/9~16の8日間という限られた時間ですべての部門すべての作品を網羅することは不可能である。コンペに絞るか、アジアに絞るか、特集に通い詰めるか……悩ましいところだ。筆者はいつもならば長篇コンペのコンプリートを目指すのだが、今年のアメリカン・ダイレクト・シネマ特集(日米の研究者による、ツボを押さえたセレクションによって「ダイレクトシネマとはなにか」「ダイレクトシネマの意義」「その歴史」などを、代表作と特徴的な作品、例外的だが外せない作品を的確に選び解説付きで上映してくれた)、パレスチナ特集、さらに各部門で上映される激動の世界情勢にビビットに反応している作品の吸引力にも引きつけられ、結果としてあちこちの部門を掛け持ちし、食い散らかすことになってしまった。おなかいっぱい、である。

 この5年、コロナ禍・ロシアのウクライナ侵攻・イスラエルによるガザ攻撃という大きく衝撃的な危機が世界を覆い、アフガニスタンでのタリバン復権や香港の民主主義運動弾圧、ミャンマーのクーデターなどはその陰に隠れてしまった感がある。前回2023年の山形映画祭には登場したトピックを扱った作品が、応募はあったのかもしれないが、今回は見られないということも起こっている。例えば香港からの作品、ミャンマーからの作品などが見られなかったのは当局の締め付けがより厳しくなり、出品はおろか製作も難しくなっているからかもしれない。その一方で、ガザ攻撃の悲惨さに目を奪われている内に忘れてしまっていたタリバン支配下のアフガニスタン女性の戦いを描く作品が2本、アフガニスタンを脱出した女性監督によって完成してアジア千波万波部門に登場、その一本「ハワの手習い」は市民賞を受賞、観客を圧倒した。そもそも2011年中東各地で起きた「アラブの春」の挫折による混乱も収拾がついておらず、戦乱の地から脱出した監督が何年も難民としてさまよった日々を記録した作品(「トレパネーション」)も、今年やっとまとめられて応募出来た、というようなこともある。
 かといって受賞作が世界的問題のショウルームになるか、というとそうでもないところが山形の面白いところ。それは作り手を始め、様々なドキュメンタリー映画を見慣れている人々が審査員であるからだろう。素材、つまり扱われているトピックに惑わされないのである。上映作品こそ現在の世界の動きや問題をビビッドに反映しているけれど、受賞作は「映画としての」「ドキュメンタリーとしての」"面白さ・斬新さ・影響性"を重視したバラエティに富む山形映画祭らしい選択になっていた。
 
 インターナショナル・コンペティションの受賞結果を見ておこう。

大賞「ダイレクト・アクション」
監督:ギヨーム・カイヨー/ベン・ラッセル (ドイツ・フランス・韓国)
 環境破壊に反対するフランスのアクティビストたちZADが空港拡張建設予定地を占拠、建設を阻止する。彼らは占拠した土地で自給自足生活を始める。監督たちはそのコミュニティに通い泊まり込み、ZADと行動を共にする。そしてZADの次の行動は水道の民営化に反対する人々との共闘だった。前回負けた政府は今回は強行策に出る…

審査員特別賞「亡くなった両親への手紙」
監督:イグナシオ・アレグロ (チリ)
 自宅の庭を撮影しながら亡き両親に思いをはせる監督。私的な家族映画のフッテージなどに監督自身の作品、父の同僚へのインタビュー等をミックスし、チリの過酷な歴史をプライベートな記憶へと合流させる。

スペシャルメンション「彷徨う者者たち」
監督:マロリー・エロワ・ぺスリー (フランス・グアドループ)
 監督のふるさとであるグアドループの街を舞台に、フランスの植民地・海外県としての長い被搾取の歴史と、その境遇に対する抵抗の意志を5年かけて撮影した作品。

最優秀賞(山形市長賞)「ガザにてハサンと」
監督:カマール・アルジャアファリー (パレスチナ・ドイツ・フランス・カタール)
 ある日出てきたビデオ・テープ。「ガザでハサンと」と書かれた表書きに、監督は1989年収監された自身の記憶と、その同房者を探すため2001年ハサンと共に旅したガザの記憶を重ね合わせ思い出す。

優秀賞「愛しき人々」
監督:タナ・ヒルベルト (チリ・ドイツ)
 撮影行為を禁じられながらスマホで密かに撮影されたチリの女性刑務所の日常。獄中出産した子どもと暮らす二年間の記録と離れている家族、刑務所の仲間たちなどとのイメージの集合記録。

優秀賞「公園」
監督:スー・ユーシェン (台湾)
 2人の留学インドネシア人の詩人が台南公園で出会い会話をする。日が暮れた公園で2人は架空のラジオ番組を始める。故郷を離れた人々が、薄闇の公園でふるさとの言葉で語り出す。

「ドキュメンタリーとはなにか」という問いを投げかけ続けて来た山形国際ドキュメンタリー映画祭。それは事実の記録であり、そこから削り出された真実であり、ジャーナリズムであり、ポエムであり、アートである。どれか一つだけをドキュメンタリーであると信じ込む人にはこの映画祭が選んできたバラエティに富む受賞作は受け入れがたいかもしれない。しかし、一つだけいえることは、この監督たちにとって、ドキュメンタリーとは事実の中から彼らがつかみ取り伝えようとする真実を描くものである。事実だけでも情報伝達だけでもなく、監督の真実、それが提示され初めて映像はドキュメンタリーたる作品になるのである。そして、山形国際ドキュメンタリー映画祭は続いていく。