
文・遠藤京子
コンペティション部門の大賞、フラハティ賞を受賞した『ダイレクト・アクション』は212分の大作だ。これこそ内容と面白さが知られていくにつれて観客数が増えていく、見られるべき作品だと思う。
舞台はフランス西部ロワール・アトランティック県。1965年に新空港建設地に選ばれてしまったナント郊外のノートルダム・デ・ランドの、空港建設反対運動が進むなか環境活動家が地元農民に合流してできたコミュニティ、ZADを描く。ZADとはZone à défendre(英語ではZone to defend、守られるべき土地の意)の略で、無益な開発に対する抗議行動として占拠された土地という意味だ。ノートルダム・デ・ランドが有名になったのは2018年に当時のフランス政府が空港建設を断念したからだ。三里塚と同じようなことが起こったが反対運動で取り戻すことができた場所で、運動成功の10年後のコミュニティを撮ったのがこの作品だ。3時間半の映画なのに36カットしかなく、没入的な長回しで日常生活が映し出される。
150人ほどが暮らすこのコミュニティは自給自足で成り立っていて、酪農場にベーカリー、製材所にラジオ局も印刷所もある。撮られているのはエコテロリストと呼ばれる人々なので顔が映されない場面も多いが、そのためかえってスロー動画やDIY動画を見るのに似た面白さが生まれた。たとえば、大量の小麦粉と水がZADの刺青が入った腕でゆっくり混ぜ合わされていく場面がある。通常のパン作りにはここまで水を入れない。水が多ければ味は良くなるが難易度も上がると言われているのだ。時間を計っていなかったが小麦粉と同量の水を吸水させていくには10分以上かかっていたはずなのに、その間見ていてまったく退屈しない。パンをこねるのには時間がかかるのでホームベーカリーなども人気だが、本来はパンをこねること自体に触覚的な楽しさがある。だが機械を使うとそうした楽しさは失われてしまう。結果ばかりを追い求めることが多い社会にあって、このコミュニティの人々はプロセスを大切にしているのだと理解できる。
生活は牧歌的で、知らずに見れば伝統農法のドキュメンタリーのようだ。チェスを指したりピアノの演奏を楽しんだり女子同士でピアスの穴を開ける場面もあり、バカンス映画のようでもある。しかしパンクバンドのライブやラップの歌詞や、逮捕時の尋問対処マニュアルを朗読する女性の映像で、ここが社会活動家のコミュニティなのだと改めて気づく。もちろん、ただ活動家の日常を映しただけではない。パンを焼いたり、植物を植えたり、壁を壊す場面などの映像は行為のメタファーを考えて選ばれ、注意深く配置されている。
だがもっとも長いシーンはサント・ソリーヌ貯水池計画への2023年の抗議行動だ。この政府による大規模貯水池建設計画には環境破壊や大規模農家による水資源独占や地域の渇水化などさまざまな問題があり、多くの人々がデモに加わった。ここで突然、それまでの映像の穏やかさが嘘のような苛烈な暴力が描かれる。暴力は警察によるものだ。デモ隊はガーゼのマスクと水泳ゴーグルくらいの装備なのに、フルアーマーで武装した警察が催涙弾をバンバン撃ってくる。あまりの事態に「あなたたちが撮るのは別の場所でしょう!」つまりもっと警察に近寄って彼らの暴力を撮れ!と怒る女性も映る。上映後のQ&Aでこのとき3人に1人の催涙弾が使用されたと監督は話した。この暴力で3000人が被害を受け2人が昏睡状態に陥ったという。映像は時系列ではなく、この抗議行動の後はまた畑の雑草を取るシーンになる。
タイトルの直訳の“直接行動”とは暴力行使ではなく“自分のことは自分でやること”だ。自律主義ということなのだ。だからザディストたち(フランスではZADはラルース辞典に載るほど知られた言葉で、抗議運動をやるzadistも一般用語になっている)は、自分たちで植え、耕し、収穫し、パンを焼き、建物の修繕だろうが林業だろうがなんでもやる。
じつはこのタイトルをベン・ラッセル監督が提案した当初、ギヨーム・カイヨー監督は無理だと即答したそうだ。フランスでは過去にAction directと名乗る極左過激派が銀行強盗や爆弾テロに関わっていたからだ。しかし受動的な抵抗では気候危機は避けられないとラッセル監督がカイヨー監督を説得してこのタイトルになったという。環境保護団体へのインタビューで団体の女性が「行動することで人は強くなる。何もしないで現状に慣れるより環境への不安も減る」と答えたシーンも入れられていた。
もちろん、ダイレクト・シネマにかけられたタイトルでもあって、長回しや運動だけでなく背景となる生活を追っていることに小山プロ作品の影響を会場で指摘した人もいた。ラッセル監督はワイズマンの影響についても言及している。
どのように生きるか、大変な状況でも日々の営みを楽しみながら暮らすことは可能だ。丁寧に暮らす生活そのものが抗議行動にもなる、もうひとつの世界を見せてくれる傑作だ。
「ダイレクト・アクション」空港建設に反対する地元農家の運動が次世代の環境運動と結びついた共同体ZADを、運動成功の10年後に撮ったドキュメンタリー。共同体の牧歌的な営みとともに水資源の私企業化に対する集団的な直接抗議行動が描かれる。16ミリフィルムで撮影。シネマ・ドゥ・リールでグランプリ。ベルリン映画祭でも2賞受賞。
監督:ギヨーム・カイヨー、ベン・ラッセル (2024/ドイツ、フランス、韓国/212分)
画像提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭
*ZADについては以文社のサイトで『パリと五輪 空転するメガイベントの「レガシー」』著者の佐々木夏子さんがラルース仏語辞典から訳出された説明が最もわかりやすい。以下それを引用「不要で、巨額の費用がかかり、環境および地元の住民にとって有害となる可能性があると考えられる整備計画に反対するため、活動家たちによって占拠される空間。農村部にあることが多い。」
https://www.ibunsha.co.jp/contents/natsukosasaki_07-2/

