認知症を患った大女優の苦悩と美しき友情『喝采』
©️2024 Crazy Legs Features LLC 

推薦者・渡辺祥子

ブロードウェイの大女優、リリアン・ホールがチェーホフの名作『桜の園』の舞台の初日を目前にして台詞が出てこない恐怖に直面する。台詞を忘れ、新たな台詞がおぼえられない。医師の診察を受けてその理由が判明した。認知症……。
そんな始まり。ある程度の年代になれば誰もが心の片隅に抱えるに違いない不安がここにある。記憶が消えていく。
ブロードウェイに実在した大女優をモデルにエリザベス・セレデス・アナコーンが書いた脚本を、舞台俳優出身の監督マイケル・クリストファーが映画化した。ヒロイン役を演じるのは「キングコング」映画のヒロインから迫力のある(ちょっと怖い)大物女優になったジェシカ・ラング。もはや若さは失われ、記憶が消えて台詞が覚えられない大女優を襲った恐怖、絶対、他人には知られたくない秘密がここにある。
やっと覚えた台詞が出てこない。そうなればすでに用意されている代役が彼女の代わりを務め、すべてが奪われるかもしれない。
リリアン・ホールは長年苦労を共にしてきたアシスタントのイーディス(キャシー・ベイツ)に自分の抱える恐怖を隠そうとした。だが、長年の相棒が真実に気づかないわけがない。そのうえ舞台にかまけて手をかけてこなかった娘との間には冷たい風が吹いている。
人生のエピローグをいかに生きるべきか? 多くの人々にとってよけて通れない問題を見据えたドラマはその一方でリリアンのアパートの隣人や007役で知られるピアース・ブロスナン演じるリリアンの亡き夫との関わりを描いて温かな血の通った世界を生み出していく。そして嬉しいのは、そこにリリアンの苦悩を読み取ってイーディスが示す思いやりだ。女同士の友情を描いたドラマはいろいろあるけれど、ここにはちょっと嬉しくなる女の真の友情がある。その美しさこそがこの映画の一番の見どころと思った。


©️2024 Crazy Legs Features LLC 

1月9日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国公開