
推薦者・田中千世子
民族や共同体が受けた過去の過酷な出来事が「集団の記憶」となって現在の非人道的な行為の正統性を主張する。その誤謬が今日では問題になっているが、本作はまぐれもなく個人の記憶に立脚した個人の物語として完結している。その意味は大きい。
1991年のポーランド。社会主義体制が崩壊し、自由主義へと移り変わってまもない時期である。ニューヨーク生まれの元気な女子ルーシーが父のエデクとポーランドの旅に出る。駆け出しジャーナリストのルーシーの目的は、両親の故国を旅して、彼女自身のユダヤ系のルーツとアウシュヴィッツ強制収容所を関連付けた記事を書くことだ。事前勉強もバッチリ、参考書もいろいろ携えて、準備万端。意気込むルーシーと対照的にのんびりムードの父エデクは、ポーランド内を列車移動はいやだと勝手を言い、タクシーでいろんな町を訪れる。奇妙な父娘の旅である。ホテルでほかの客たちと陽気にふるまう父。ところが、アウシュヴィッツに到着すると、「人間を焼くにおいが今はしない」とひとりごと。昔のアパートには別の家族が今は住んでいる。食器もあれば父の亡き父のコートもそこにある。心に深く訴える秀作である。
2026 年 1 月 16 日(金) kino cinema 新宿ほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
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