投稿者・まつかわゆま
ゴールデングローブ賞とは
米アカデミー賞の前哨戦と言われてきたゴールデングローブ賞。前身はハリウッド外国人記者協会が選ぶ、米国映画を対象とする賞だったが、BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動のあおりを受け、2021年同賞審査員であるハリウッド外国人記者協会会員の人種的不均衡(アフリカ系のメンバーがいなかった)や当時の会長の発言などが問題視され、さらに慣行であったハリウッド映画制作会社からの接待なども賞の選考に忖度が働くのではという疑惑もあり、大きなスキャンダルになった。
そのため同賞をボイコットしたりトロフィーを返還するスターが現れたり、授賞式の中継をしていたテレビ局NBCが21年度の中継(22年1月予定のもの)を中止したりという事態になって、2021年度のゴールデングローブ賞は中止になった。そこで、22年度からは審査員に世界から国際批評家連盟加盟の映画批評家の参加を募り、国際審査員を加えて賞の存続を図った。
日本映画ペンクラブは日本唯一の国際批評家連盟加入組織のため、日本映画ペンクラブの会員も希望者は審査を経てゴールデングローブ賞の国際投票者になれることになったわけだ。
結局、ハリウッド外国人記者協会は23年その全資産を売却し解散、24年からは賞の主催もテレビ制作会社に移り、授賞式中継はCBSに代わりゴールデングローブ賞は存続する事になった。現在は国際批評家連盟所属ではない映画ジャーナリスト・映画批評家も国際投票者になれるようになり、300名を超える世界の映画ジャーナリストが国際投票者として登録、審査をしている。日本人メンバーも10名ほどいる。
筆者は最初の募集のときに手を上げ、4回目の投票を終えたところである。映画部門のみの審査として申し込んでいたのだが、25年度からはテレビ部門とスタンダップコメディ部門、そして新設のポッドキャスト部門も審査せよと言うことになり、大変な思いをした。
ゴールデングローブ賞の構成とその特色
ゴールデングローブ賞は映画部門とテレビ部門に分かれており、それぞれにドラマ部門とミュージカル&コメディ部門があるのが特徴だ。対象は1/1~12/30にアメリカ国内で公開されたドキュメンタリーは除くアメリカ映画全般であるが、批評家や映画祭の選ぶ賞はどうしてもドラマに偏り、作り手や観客の動向が反映されているとは言いがたい。そこを鑑みて二つの部門が設けられているわけだ。さらに映画部門には国際長編映画部門とアニメ映画部門があり、さらに批評家受けはしなくても興行成績はとてもよかった、つまり観客からは好まれた作品を讃えるために興行成績賞も設けられている。
映画部門とテレビ部門にはドラマとコメディ部門毎に作品賞・主演男女優賞があり、ドラマとコメディあわせての助演男女優賞がある。映画部門にはドラマとコメディあわせての監督賞と脚本賞、作曲賞、歌曲賞があり、その候補にはアニメ映画部門と国際長篇映画部門からも選ばれることが出来る。スタンダップコメディ部門とポッドキャスト部門を加え、しめて28部門の審査が行われるのである。
国際投票者が加わる前、ハリウッド外国人記者協会による賞だったころは、評論家やジャーナリストが選ぶ各地の批評家協会賞やナショナル・ボード・オブ・レビューの賞とは異なり、業界内部つまり作り手の選ぶアカデミー賞に近く、さらにハリウッド映画ファンの外国人が好む映画が選ばれる賞という、ちょっとミーハーな、ハリウッド映画好きの観客に近いスタンスの賞だ(から面白い)と筆者は認識していた。しかし国際投票者が加わることによってゴールデングローブ賞は批評家協会賞的な色合いが強くなり、アート指向・インディペンデント指向、さらに国際映画祭に出品された作品が選出される割合も高くなり、「アメリカの、ハリウッドの」映画賞という特徴が薄れてきたように思う。
ともあれ、前述したような理由で新規巻き直しされたゴールデングローブ賞である。これからどのような位置に納まるか、まだ道半ばといったところだと思う4年目の、第83回ゴールデングローブ賞の受賞結果を報告しておこう。来る3月のオスカーのゆくえを予想するのに役立つ、かもしれない。
2025年度、第83回ゴールデングローブ賞受賞結果
●映画部門(ドラマ)
作品賞『ハムネット』
主演女優賞 ジェシー・バックリー『ハムネット』
主演男優賞 ヴァグネル・モウラ『シークレット・エージェント』
●映画部門(ミュージカル&コメディ)
作品賞『ワン・バトル・アフター・アナザー』
主演女優賞 ローズ・バーン『If I Had Legs I'd Kick You』
主演男優賞 ティモシー・シャラメ『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』
●映画部門(共通)
助演女優賞 テヤナ・テイラー『ワン・バトル・アフター・アナザー』
助演男優賞 ステラン・スカルスガルド『センチメンタル・バリュー』
監督賞 ポール・トーマス・アンダーソン『ワン・バトル・アフター・アナザー』
脚本賞 ポール・トーマス・アンダーソン『ワン・バトル・アフター・アナザー』
作曲賞 ルドヴィグ・ゴランソン『罪人たち』
歌曲賞 「Golden」『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』
アニメーション映画賞 『KPOPガールズ!デーモン・ハンターズ』
興業成績賞 『罪人たち』
国際長篇映画賞 『シークレット・エージェント』
●テレビ部門(ドラマ)
作品賞 『ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室』
主演女優賞 レイ・シーホーン『プルリブス』
主演男優賞 ノア・ワイリー『ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室』
●テレビ部門(ミュージカル&コメディ)
作品賞 『ザ・スタジオ』
主演女優賞 ジーン・スマート『Hacks』
主演男優賞 セス・ローゲン『ザ・スタジオ』
●テレビ部門(リミテッド&アンソロジー&テレビ映画)
作品賞 『アドレセンス』
主演女優賞 ミッシェル・ウィリアムズ『人生の最期にシたいコト』
主演男優賞 スティーブン・グレアム『アドレセンス』
●テレビ部門(共通)
助演女優賞 エリン・ドハティ『アドレセンス』
助演男優賞 オーウェン・クーパー『アドレセンス』
●スタンダップコメディ部門
リッキー・ジャーヴェイス『リッキー・ジャーヴェイスのどうせ皆死ぬ』
●ポッドキャスト部門
『Good Hang With Amy Poehler』






ゴールデングローブ賞からアカデミー賞へ
結果として、『ワン・バトル・アフター・アナザー』が9ノミネート4受賞、『センチメンタル・バリュー』が8ノミネート1受賞、『罪人たち』が7ノミネート1受賞、『ハムネット』が6ノミネート2受賞、『ウィキッド 永遠の約束』と『フランケンシュタイン』が5ノミネートだったが受賞なし、ということになった。
授賞式の翌日からアカデミー賞のノミネート投票が開始され、22日にノミネートが発表されたが、ゴールデングローブ賞と重なっているところも多い。アカデミー賞にはゴールデングローブにはないカテゴリーが13部門あり、そのうち長篇劇映画を対象としたカテゴリーは9部門。例えば、歴代最多16ノミネートになった『罪人たち』はちょうどゴールデングローブのノミネート数にこの9部門分を足した数になる。『ワン・バトル・アフター・アナザー』の13部門ノミネートはゴールデングローブ受賞数プラス9だし、『センチメンタル・バリュー』の9ノミネートはゴールデングローブノミネート数プラス編集部門である。アカデミー賞ノミネート数でいうと『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』と『ハムネット』と『フランケンシュタイン』が8、『トレイン・ドリームズ』と『シークレット・エージェント』が3といったところが重なっている。
番狂わせだったのは昨年の目玉だった『ウィキッド』がノミネートすらされなかったところだろう。ゴールデングローブでは歌曲賞2つを含め5ノミネートはされたものの無冠。他は無理でも歌曲賞に二人の歌姫のどちらかは、と新曲を用意したのも無駄になってしまった。昨年新曲を入れておけばよかったのに、と今頃作戦の失敗に地団駄を踏んでいるのではないだろうか。
アカデミー会員にも非アメリカ人メンバーが増え国際化が進み、なおさらゴールデングローブ賞との同期性が高まっていく可能性は大きい。そのとき生き残るのはどちらか、といえば当然アカデミーの方である。ではゴールデングローブ賞の生き残る道はどこに?! しばらく模索は続きそうである。

