柄本明&西本竜樹の全国巡演朗読劇の記録 『今は昔、栄養映画館の旅』
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推薦者・立花珠樹

若い頃、全国の競馬場とジャズ喫茶と名画座を制覇したいと夢見ていた。結局、何一つ果たせず齢を重ねてしまったが、今でも、心が騒ぐ時がある。
なぜ、そうした場所に引きつけられるのだろう?
映画館については、竹田正明監督『今は昔、栄養映画館の旅』に、一つの答えがある。劇団東京乾電池の柄本明と西本竜樹が、2025年5月、14府県・24館のミニシアターで、朗読劇を巡演した。全行程を記録したこの映画には、2人の俳優と彼らを支えるスタッフの情熱とともに、映画館という場所が持つかけがえのない魅力が凝縮されている。
巡演初日の埼玉県・川越スカラ座から、千秋楽の新潟市のシネ・ウインドまで、上演会場となった24館は、映画館としての作りも歴史も経営者も異なるが、観客の上演時の反応や上演後の幸せそうな笑顔は共通していた。そうした観客との交流が、31日間、ほぼ連日ワゴン車で移動しながら公演を続ける過酷な旅を支えたのだろう。「映画館っていうのは、その町の文化だと思います」。千秋楽の柄本のあいさつには実感があふれていた。映画館は他者との、そして自らとの出会いの場なのだ。
2人が朗読した竹内銃一郎の戯曲「今は昔、栄養映画館」(1983年初演)は、「監督を自称する 男1」と「助監督と呼ばれる 男2」が、2人が作った映画の完成披露試写会の会場で、5分後にやってくるはずの大勢の招待客を待っているという設定の不条理劇だ。95年には石橋蓮司とのコンビで「男2」を演じた柄本が、今回は「男1」を演じている。
空き時間には1人で映画を見て、監督を相手にサラ・ベルナールや志村けんや小津安二郎の話を楽しそうにする。「有名になったからって、偉いと思い上がることは恥ずかしいと思う人」と、年下のスタッフが敬愛する柄本の人柄が、ほんわかと伝わってくる。演技と映画へのあふれる愛も伝わってくる。

3月14日、池袋・新文芸坐、20日、シネマヴェーラ渋谷、4月4日、早稲田松竹ほか全国順次公開