
推薦者:遠藤京子
「慈善ではなく連帯」住民が親しんできたパブ、オールド・オークで培われること
女性だからといって困窮した女性の気持ちがわかるとは限らない。権力や金に目が眩んだような女性もいるし、困窮女性の気持ちに寄り添える男性もいる。ノンバイナリだって行動次第だ。サッチャー元首相は女性だが、99%の生活を貧しくする新自由主義経済に国を邁進させた。一方、同じイギリスで困窮する若者や労働者の気持ちを汲み取る作品ばかり撮り続けてきたのがケン・ローチ監督だ。
あまりの政治の堕落ぶりに引退を取りやめて『わたしは、ダニエル・ブレイク』(16)を撮った監督も、今度こそ引退作と表明したのが本作だ。舞台は2016年、難民を受け入れたイギリス北部の炭鉱町だ。町は寂れきって地価もダダ下がり、より立場が弱い子どもや難民に不満をぶつける人も多い。この町には住民の溜まり場のパブがあって、その名前がオールド・オークだ。

シリアから一家で逃れてきたヤラ(エブラ・マリ)は、着いた途端ヘイトにさらされ、フーリガンにカメラを壊されてしまう。パブの主人のTJ(デイヴ・ターナー)は、蛮行を見かねてヤラに同情し、カメラの修理代替わりにと叔父の形見のカメラを差し出す。小さな町なのでパブにはヘイトを撒き散らす男たちも来る。男たちに集会のために場所を貸せと言われて、頑張って断ったTJは、今度はヤラたちに難民支援団体の子ども食堂に場所を貸してほしいと言われてしまった。彼らには貸したいが、常連が来なくなったら経営はどうなるだろうか…。
ヤラたち難民家族とTJをはじめとする地元の人々が少しずつ心を通わせていく様子が細やかに描かれる。支援団体のローラだけではなく、最初は難民を警戒していた人々も、お互いの窮状を知って共感しあったり、料理を味わって多文化の良さを理解したりし始める。助けられるのは難民側だけではないのだ。結果として町の人々も子どもの面倒を見てもらったりして物理的に助けられ、こころの豊さも得ていく。

「慈善ではなく連帯なんだ(This is not charity, it’s solidarity)」という台詞は重要だ。しかし、ヘイトにしがみつく中年男性たちが悪巧みして…という物語で、マチズモの救われなさも浮き彫りになる。多文化交流の輪の中に入ったほうが絶対幸せになれるのに、自分を変えられない人というのは難儀なものだが、醜いヘイトに足を引っ張られても連帯がなくなることはない。脚本はずっとケン・ローチと組んできたポール・ラヴァティ。人間同士の結びつきができれば絆は簡単には壊れない。爽やかな結末に背中を押される気がした。
『オールド・オーク』
◆公開日:4月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館他全国ロードショー
◆配給:ファインフィルムズ
© Sixteen Oak Limited, Why Not Productions, Goodfellas, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2023


