
推薦者:石津文子 Ayako Ishizu
ヒュー・ジャックマンとケイト・ハドソンの芸達者ぶり
同名の2008年のドキュメンタリー映画をもとに、音楽への愛で結ばれた夫婦バンドの波乱の軌跡を描く。舞台は1980年代終わりから90年代にかけての米ウィスコンシン州ミルウォーキー。ベトナム帰還兵のマイクは鬱屈を抱えつつ修理工をしながら娘を育て、歌まね歌手として舞台に立っているがうだつが上がらない。だが同じような境遇の歌手クレアと出会い、「スイート・キャロライン」で知られる国民的歌手ニール・ダイアモンドのトリビュート・バンド、“ライトニング&サンダー”(稲妻と雷鳴)を結成すると、運命が動き出す。二人はやがて結婚し、仲間や家族の協力を得て徐々に人気バンドとなっていくのだが、悲運に見舞われる。タイトルはニール・ダイアモンドの全米No.1ヒットから来ており、悲しい時は悲しい歌を歌うと気分が晴れる、という励ましの歌で、本当にマイクとクレアの半生そのものだ。

マイクを演じるヒュー・ジャックマンの歌の実力は、『グレイテスト・ショーマン』(17)はじめ誰もが知るところだが(元々ミュージカル「オクラホマ!」の舞台で注目された)、クレア役のケイト・ハドソンもかなり歌がうまくて驚かされる。実は彼女は2024年にCDを発表するなど歌手としても活動しているのだ。ケイトの肝っ玉かあさんぶりと、歌の見事さと、事故に遭ってからの悲痛さを演じ分ける演技力はお見事。アカデミー賞やゴールデングローブ賞で主演女優賞候補になったのも当然だ。『あの頃、ペニー・レインと』(00)以来のハマり役だろう。ヒュー・ジャックマンもカリスマ性の出し入れがうまい。ヒューのミュージカルやリサイタルを観たことがあるが、この人は本当にエンターテイナーとして才能の塊であると同時に、嫌味がない。それがこの映画の爽やかさにもつながっている。また、お久しぶりのジム・べルーシの興行師など、脇役も安心感たっぷり。
地方都市で夢を叶えることの厳しさ
ヒュー・ジャックマンがニール・ダイアモンドを演じるのではなく、歌まね歌手の役と知ったときは驚いた。しかし日本でもモノマネ芸人や歌手が人気なように、アメリカにもそうした存在が多い。さらに言えば、広大すぎるアメリカでは本物を見る機会がない人々も数多くいて、彼らはトリビュート・バンドに熱狂するのだ。映画のクライマックスも、ニール・ダイアモンドの久々のミルウォーキー公演が決まるがチケットは完売、そこでライトニング&サンダーの公演が組まれ、こちらも完売するという場面が描かれている。面白いのは、彼らが有名になるきっかけとなるのが人気バンド、パール・ジャムの前座に招かれたこと。リードシンガーのエディ・ヴェダーが登場するところでは大ウケしてしまった。なかなか似ている! これも実話だというから、事実は映画より奇なり。ドキュメンタリー版でニール・ダイアモンドの協力を取り付けたのもエディらしい。

この手の話に出てきそうな悪人が誰も出てこないから、物足りないような気がしていたが、途中から怒涛の展開に。マネージャーから誰からみんな良い人なのに、次から次へと災難に見舞われる。これがほぼ事実というのだから、人生はままならない。だからこそ、人は応援歌を求めるのだろう。脚本・監督は『ハッスル&フロウ』(05)のクレイグ・ブリュワー。ちょっとエピソードを整理した方が良いところはあるが(娘の妊娠など)、アルコールの問題や、アメリカの地方都市で夢を叶えることの厳しさも描いている。
『ソング・サング・ブルー』
◆原題:SONG SUNG BLUE
◆公開:4月17日(金)より全国で順次公開
◆配給:ギャガ ユニバーサル映画
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