
推薦者・佐藤結
カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞
3月以来、「イラン」という国の名前を毎日見聞きしている。それ以前のことを思い出すと、映画ファンにとってのイランは、アッバス・キアロスタミやモフセン・マフマルバフ、最近であればアスガー・ファルハディ、そして今作を手がけたジャファル・パナヒといった監督たちの国として知られていた。彼らの作る映画をとおして私たちは、そこに生きる人々の姿や街の様子を見てきた。
カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに選ばれた『シンプル・アクシデント/偶然』は、野良犬と衝突して故障した車を直すため、ある男が修理工場へとやってくるところからはじまる。そこで彼を迎えたのは主人公ワヒド。彼は、男が歩くときに聞こえてきた「音」を聞いて驚愕する。それは彼が不当に収監された刑務所で、残酷な拷問を行なっていた男エグバル、通称「義足」がたてていた音だった。自分の人生をめちゃくちゃにした、憎むべき相手と再会したワヒドは、翌日、怒りに任せて彼を追跡して拉致するが、エグバルは「自分は別人だ」と強く主張。刑務所では目隠しをされていたこともあり、自信がもてなくなったワヒドは同時期に収監されていた人たちに助けを求める。

尊厳を踏みにじった相手にどのような復讐が可能なのか
善良で平凡な男が、自分の尊厳を踏みにじった相手と偶然、再会したことから始まるサスペンス。同じような体験をした人々が集まり、彼に対してどのような「復讐」をすべきなのかと葛藤する。2010年から3度にわたって逮捕され、2度の収監経験を持つパナヒ監督は、「釈放された時、私は塀の中で出会った人たちのために映画を作らずにはいられない」と感じ、今作を作ったという。最後まで息の抜けない見事な展開のなかで、イランの体制が人々に強いている過酷な現実を見せる。そして、「極限の状況下で、人は、人らしさをどこまで保つことができるのか」という問いを観客に投げかける。
現在のイランの状況を考えると、映画のなかに登場する美しい風景と街並みの上に爆弾が落ち、建物が破壊されたことを想像せずにはいられない。パナヒは体制批判を辞さない監督ではあるが、「他の場所では生きられない」と語り、今作の海外キャンペーンを終えた3月末に帰国したという。
『シンプル・アクシデント/偶然』
◆公開日:5月8日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開
◆配給:セテラ・インターナショナル
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