第79回カンヌ国際映画祭 報告
今年のビジュアル・テーマは『テルマ&ルイーズ』

報告者 まつかわゆま

去る5/12~23、南フランス・カンヌで第79回のカンヌ国際映画祭が開催された。
今年はメインの長編コンペティションに3本の日本映画が選出された他、計10本(関連作を含めると12本)の日本映画が上映され、さらにマルシェ(見本市)では日本がカントリー・オブ・オナーになり、と日本がフィーチャーされる年となった。
最終日に発表されたコンペティティションの受賞結果として、濱口竜介監督の『急に具合が悪くなる』の二人の主演女優が女優賞に輝いたことはすでに大きな話題になっている。

『急に具合が悪くなる』のヴィルジニー・エフィラと岡本多緒

2017年から続いていたハリウッド映画の夏休みシーズン大作のワールドプレミアが今年はなく、派手さには欠ける年になったが、その分作家性を重視するというカンヌ映画祭本来の姿に立ち戻った感のある第79回になったといえよう。前会長就任以来の課題である女性映画人の応援もすすみ、コンペには5作品、ある視点部門には19本中11本の女性監督作品が並び、ある視点賞と新人監督賞は女性監督の作品が獲得している。
本来の姿、ということでいうと、もともとファシズムに対抗するために始められた映画祭であったことも忘れてはならないのがカンヌ映画祭である。その点を考えると、コンペティションの受賞作品8本中5本が戦争をテーマやモチーフにした作品であったことも今年の特徴といえよう。

受賞作を紹介していこう。

パルム・ドール

『フィヨルド』 クリスチャン・ムンジウ監督
ノルウェイの小さな町にルーマニアから移民してきたキリスト教福音派を信仰する一家。町になじもうとするのだが、やがて思いがけない出来事から町の人々との間に亀裂が生まれていく。

グランプリ

『ミノタウロス』 アンドレイ・ズビャギンツェフ監督
ロシアの富裕層の一家。妻が不倫しているらしいことを知った夫は不倫相手を探し出そうと手を尽くす。その一方で夫が経営する会社には徴兵の割り当てがあるなど、ウクライナとの戦争が影をおとしている。

審査員賞

『ドリームド・アドベンチャー』 ヴァレスカ・グリーゼバッハ監督
遺跡の発掘をしている女性考古学者が闇市の業者たちとかかわることで、自らの抑圧された欲望と過去に向き合うことになる。

監督賞

『ブラック・ボール』 ハビエル・アンブロッシ監督&ハビエル・カルヴォ監督
スペイン。市民戦争時代と現代を交錯させながら描かれる三人のゲイ青年の物語。彼らをつなぐのは、ガルシア・ロルカの失われた最後の原稿の行方だった。

『ファザーランド』 パヴェウ・パヴリコフスキ監督
戦争中亡命していたアメリカから故郷ドイツに里帰りするトーマス・マン。運転手兼通訳として父の世話をする娘から見たノーベル賞作家の父は、ゲイである息子を捨て顧みることもない。

脚本賞

『ア・マン・オブ・ヒズ・タイム』 エマニュエル・マール監督
戦争中ね家族を養うためにナチスの傀儡政権で官僚になった男。家族のために、占領下のフランス人のために働いた男は、レジスタンスでも対独協力者でもない、ただの一人の男だったのだが…

女優賞

『急に具合が悪くなる』 濱口竜介監督  ヴィルジニー・エフィラと岡本多緒

© 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners

 

男優賞

『カワード』 ルーカス・ドン監督  エマニュエル・マキアとヴァランタン・カンパーニュ
第一次大戦に参戦したベルギーのふたりの少年兵。慰問団を作り、前線の兵士たちを励ますために転戦していくうち、ふたりは恋に落ちていくのだが…。

今年は比較的下馬評と受賞結果が近かったのだが、フランスのジャーナリストたちには『ア・マン・オブ・ヒズ・タイム』の評判が特によかったのが印象に残った。フランス人にとって、いやヨーロッパにとって今起こっている戦争はすぐそばにあり、自分事として感じられるものなのだと思う。今戦争がヨーロッパに波及すれば、自分はどうするのか…。それを『ア・マン・オブ・ヒズ・タイム』の主人公の行動に重ねていたのではないかと筆者はふと思ったのである。