
推薦者;立花珠樹
「遠くない未来」の神奈川県南部。2年前に一人息子を亡くした夫婦が、写真や動画を基に作成された「息子と生き写しのヒューマノイド」を無償で提供される。
是枝裕和監督の新作「箱の中の羊」は、ここから始まる物語だ。感動する妻と対照的に夫は機械と軽視するが、次第に気持ちが変化していく。そして、息子の死の経緯や、夫婦の心の傷、わだかまりなどが明らかになっていく。ある日、ヒューマノイドの息子は、別のヒューマノイドたちとつながりを持ち、まるで意志や感情があるかのような行動を始める。
落ち着いて考えると、とんでもなく非現実的な出来事を描いているのだが、さして違和感を抱かずに物語の中に入っていけるのが、是枝監督の演出の力だろう。工務店の二代目社長の夫が大悟、建築家の妻が綾瀬はるか、というキャスティングを聞いた時は、大丈夫なのかなと思ったが、予想以上にはまっている。特に、大悟の人懐っこさ、荒々しさなどを引き出し、「知らんけど」というせりふを、効果的に使っているのに感心した。
ヒューマノイドの息子を演じた桒木里夢(くわき・りむ)は、オーディションで選ばれ、本格的な演技はこれが初めて。「誰も知らない」「万引き家族」「怪物」で証明済の子役に対する演出のうまさが、今作でも存分に発揮され、可愛さと同時に無機質な感じがよく出ていた。
タイトルの「箱の中の羊」は、サンテグジュペリの小説「星の王子さま」の冒頭に出てくるエピソードに由来し、同書の中の「肝心なことは目では見えない」という言葉も、映画の中で印象的に使われている。
是枝監督はプレスシート収録の門間雄介によるインタビューで、「死者をAIとして蘇らせるビジネスが中国で人気だという記事を目にしたこと」が企画のきっかけになったこと、「星の王子さま」を読み直し「人間には本来、箱の中身に思いを巡らせる想像力があったはずなのに、今やすっかり失われてしまった。そんな人間の退化を尻目に、おそらくAIは人間を取り残していくのでしょう」と思ったのが本作のモチーフになっていることなどを語っている

問題意識には共感する。木の時間、木々のつながりなど、幾つものキーワードも、未来について考えるヒントを与えてくれる。ただ、映画を見終わった時、幾つかの疑問が残った。例えば、ヒューマノイドの修理をする製作会社のエンジニア(中島歩)は、ヒューマノイドたちの〝反乱〟にどのように関わっているのか? 感情は持たないはずのヒューマノイドたちは、なぜ変わったのか(それとも、これは感情とは別なものなのか)? 彼らはネグレクトされた人間の子どもたちとも連帯していくが、こんなに簡単に実現できるのだろうか?
見終わった時、そうした疑問に十分に答えてくれていない、というもどかしさが残る。是枝監督が撮り続けてきた「家族の崩壊と再生」というテーマに引き寄せられたことで、死者をヒューマノイドで代替するという発想に含まれる人間の傲慢さ、怖さを描くことがやや弱まった感がある。
配給;東宝 ギャガ
5月29日(金)公開

