『ハワの手習い』孫娘に読み書きを習うハワ
『撃たれた自由の声を撮れ』奪われた自由と教育を求め街に出る女性たち

推薦者:まつかわゆま

 昨年10月に行われた山形国際ドキュメンタリー映画祭で観た二本のアフガニスタン(についての)映画が続けて公開される。市民賞を受賞した『ハワの手習い』(8月1日公開)と、無冠ながら強い印象を残した『撃たれた自由の声を撮れ』(8月15日公開)である。どちらも、2021年8月にアフガニスタン全土を再掌握したタリバン政権によって封じ込められた女性の悲痛な叫びを世界に届けようとする作品だ。
 
 2001年9月11日、ニューヨークのツインタワーに旅客機を突っ込みビルが倒壊したあの事件からアフガニスタンの苦悩は始まった。というか、アフガニスタンが大変でなかったことなんかあるのだろうか。ソビエトに侵略され、内戦が続き、イスラム教原理主義者タリバンに支配され……。そして、世界の巨大国アメリカに世界の最貧国の一つであるアフガニスタンが戦争を吹っ掛けられたのだから。2003年にはアメリカは戦火をイラクに拡大し、日本でもアフガン・イラク反戦運動が起き、筆者もそのデモ(当時はピースウォークと言っていた)に参加していた。アフガニスタンからの難民を支援する活動にも加わったことがある。
 しかし、である。あれから20年。2021年1月トランプの扇動によるアメリカ議事堂乱入に始まり、2月ミャンマーのクーデター、7月アフガンでタリバンの復権…。とんでもないことが起こってしまったと思っていたら、2022年2月にはウクライナへのロシア侵攻による戦争がはじまり、2023年10月にはハマスの攻撃が引き金になりイスラエルによるパレスチナ攻撃が激化して…ととんでもないことの上塗りが続き、ミャンマーもアフガンも民主化回復の兆しないまま放置されてしまった。と、他人ごとのように書いてしまう自分が腹立たしい。世界が新しい戦いへと視線を移している間にアフガンで何が起こっていたのかをこのドキュメンタリーが教えてくれた。アメリカ軍が完全撤退したとたん内戦状態になるかならぬかでタリバンが復権した時にはこれは大変なことになる、と思ったのだが、あっという間にそれはウクライナ侵攻への怒りにとってかわられてしまった。ごめんなさい、正直に言うと、忘れていました。その間にこんなことが起こっていたのですね、ごめんなさい。
 こんなこと。タリバンは一応約束したはずの女性への仕事や教育機会の保全をなし崩しにし、女子教育機関を閉鎖し仕事の場から女性を排除していった。この20年間でアフガニスタンの女性たちがやっと手にしかけた自由も平等も教育も仕事も再び奪われてしまったのである。タリバンから解放された20年間に成長した若い世代の女性たちにとってこの変化は受け入れがたいものであることは想像に難くない。
 この2本のドキュメンタリーはそんな彼女たち、アフガニスタンの女性たちの必死の訴えなのである。

2021年タリバン復権でアフガニスタンから離れざるを得なくなった人々の中に女性ジャーナリストである『ハワの手習い』の監督もいた。

『ハワの手習い』のハワは監督ナジーバ・ヌーリの母親である。ハザラ族の彼女は父に教育を受けさせてもらえず13歳で30歳以上年上の男と結婚させられる。ハワは6人の子どもを育てつつ、次女である監督には教育を受けさせ、大学を出た監督はジャーナリストになり、母の人生を映画にしようとする。父親は年老い認知症になりハワの世話になっているが、子どもたちは母の味方になり、母がやりたかったったことを応援する。読み書きを習い、商売を始めたいという夢を。

故郷の女たちの手仕事を生かしたビジネスを計画するハワ

監督には姉がいて、最初の結婚で儲けた娘がいる。離婚した時娘は夫に奪われてしまった。その娘、つまりハワの孫娘が父親のもとを逃げ出し母のもとにやってくるが、今は再婚し新しい家庭を築いている母は彼女を引き取ることができず、ハワが彼女を引き取ることになる。孫娘との新しい日々、商売への熱意。ハワに訪れた新しい幸せ……そこにタリバンの復権で暗雲が立ち込めることになる。女性ジャーナリストである監督は着の身着のままでアフガニスタンを脱出せざるを得なくなり、撮影は兄にバトンタッチされる。親権のない孫娘も守り切れなくなり父親のもとに返さざるを得なくなり、やがて彼女はハワのように嫁に出されてしまったことがわかる。ハワの築いてきたものが崩れていく…。

ハワと孫娘。つかの間の幸せ
 
 伝統的な家父長制の下で苦労してきたハワがやっと自分自身の暮らしを築こうとして子供たちの応援でうまくいきそうになったのに、タリバンの復権ですべてが水泡に帰す悲劇を、抑制のきいた語り口で描く監督の知性と静かな、しかしたぎる怒りがひたひたと伝わってくる作品である。つらい境遇でもあきらめないで夢を持ち続け、子どもたちに道を開いたたくましい母への感謝と称賛と、それを再び押し殺した現実への怒り。今はフランスで暮らす監督とハワが再び会える日が来ることを願わずにはいられない。


タリバンに奪われた女性の自由と教育を求めて立ち上がった女性たちの活動を追う

もう一本の作品『撃たれた自由の声を撮れ』は『ハワの手習い』よりも闘争的な作品である。ラシュミンとナスタランの姉妹は女性の自由と教育の機会の復活を求めて女性たちのデモを組織する。彼女たちの戦いはまず父や兄弟たちとの戦いであり、近所の人たちとの戦いでもある。いつ密告されるかわからない状況で、2人は支援者や友人の家を転々と移動しながらデモを続ける。街に出れば銃を持ったタリバンに妨害され、催涙スプレーや空砲で脅かされたり攻撃されたりするのも日常だ。参加者たちのなかにも恐怖で参加を取りやめる者も出てくる。それでも自分の子ども世代に教育の機会と自由を与えるために、危険を冒しても二人はデモをやめることはない。デモの主催者であるラシュミンには参加者の安全を守る義務もあり、気の休まるときはない。

閉鎖された女子学校の前でデモをすると、タリバンの報復を恐れる校長からそこでデモをするなと追い払われる

監督は亡命中のアフガニスタン人女性監督ザイナブ・エンテザール。スカーフの中に隠したスマートフォンで撮影したりとゲリラ的な撮影で、臨場感のある映像が迫力を持って迫ってくるジャーナリスティックな作品である。残念なのはメロドラマチックな音楽をつけたところで、それが山形映画祭無冠の理由だろうと思う。


捕まれば拷問されレイプされるかもしれない恐怖を感じながらも参加者は世界に向けてアピールを続ける

作り方は対照的だが訴えていることはおなじ。世界に対して、アフガニスタンの女性たちの苦境を知ってほしい。リーダーたちに何らかの形でタリバンに物申してほしい。女性の権利は人類の権利、生きる権利なのだと、アフガニスタンの女性たちは文字通り命を懸けて訴えているのである。

『ハワの手習い』
写真コピーライト:ⒸTAG Film

2026年8月1日(土)、[東京]ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次

監督・撮影:ナジーバ・ヌーリ
共同監督・撮影:ラスール(アリー)・ヌーリ 
製作:クリスティアン・ポップ
編集:アフサネ・サラリ
制作:TAG Film
日本語字幕:佐藤まな 配給:東風
フランス、オランダ、カタール、アフガニスタン|2024年|85分|ダリ―語|DCP|英題:Writing Hawa
〈公式サイトURL〉
https://tofoofilms.co.jp/afghan/hawa

『撃たれた自由の声を撮れ』
写真コピーライト:ⒸLumier Film

2026年8月15日(土)、[東京]ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次

監督・撮影・製作:ザイナブ・エンテザール
編集:モハマド:サミプール 制作:Lumier Film
日本語字幕:吉田ひなこ 字幕監修:後藤絵美、アウィード 配給:東風
アフガニスタン|2024年|70分|ダリ―語|DCP|英題:Shot the Voice of Freedom
〈公式サイトURL〉
https://tofoofilms.co.jp/afghan/shot